黄昏に香る音色

「もういい加減…店名も変えよう!ここを捨てて、出ていったやつが、つけた名前なんて…くそ食らえだ!」

普段、いつも愛想良く笑顔のイメージがある阿部の…怒った顔を、明日香は今まで想像できなかった。


「KKには、あたしも入ってるの」

恵子は、扉にはめ込んである店名のロゴを見つめた。

「店をやりたいと言ったのは、あたし…。結果が、どうであれ…あたしも関わっていたの」


「でも!姉さん!」

思わず立ち上がり、まだ何か言おうとする阿部を、

恵子は遮った。

「あたしは、後悔してない」

恵子は、阿部の目を見つめた。

恵子の目の強さに、阿部は何も言えなくなる。

「姉さん…」

阿部は、立ちすくむ。

「大樹…有り難う」

恵子は、阿部に微笑むと、明日香に顔を向けた。

「折角…明日香ちゃんのノロケ話を、きこうとしたのに…。明日香ちゃんが、びっくりしてるじゃない」

「え!い、いえ…」

いきなり振られて、明日香は口ごもる。


「ママ!来たよ」

突然、店の扉が開き、団体のお客さんが入ってくる。

恵子の表情が、一瞬にして変わる。

「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます。奥のテーブル席へどうぞ」