「ママ!買ってきたよ」

里美は、ダブルケイの扉を開けると、恵子のもとへ走り寄った。

手には、LikeLoveYouのYASASHISAのシングルを持っていた。

街にでて、大型の外資系CD店に買いにいったのだ。

まだ、日本盤は出ていなかった。

里美は、2枚買ってきており、1枚を恵子にプレゼントした。

「お金払うわよ。里美ちゃん」

里美は、大袈裟に首を横に振り、

「いいよ、ママ。無理矢理押しかけて、雇ってもらってることだし」

頑として、お金を受け取らない里美に負けて、

恵子は有り難く、頂くことにした。

早速CDをかけた。





恵子は、涙した。

里美達には、見られないようにしたが…。

流れる音には、歌手明日香がいた。

もう…恵子を超えていた。

(若い頃なら、嫉妬したかしら?)


恵子は、心の中で、首を横に振った。

(いえ…しなかったわ)

そんなレベルの話じゃない。

誰もが聴いて、癒される音。

誰もが、日常にきいてる音。

風の囁き、鳥達の囀り、小川のせせらぎ、

心臓の鼓動。

(そうなのね…)

恵子は、瞳に感動の涙が溢れた。

(あなたが、手に入れたのは…自然の音)

誰もが、普通に聴いていて、

意識してない音。

雑音や人工の音でも、

楽器の音でもない。

(あなたの声は…)

自然に、明日香の言葉が耳にはいり、

全身に染み渡る。

何の違和感も

嫌悪感も感じさせないで。