Let Me Love You。

何年かぶりに、このアルバムを耳にした。

一人、マンションにいると退屈だ。

ダブルケイが、家みたいなものだから。

啓介も、ほとんど帰ってこないし。

恵子は一人…ワインをあけて、グラスを傾けていた。

理恵の歌声を聴きながら…。

昔、持っていたアルバムはすべて、捨ててしまった。


健司が去った日から、しばらくしてから。

綺麗な女だった。

美貌とは、あの女の為にあると思った。

歌も最高だった…。

だから、

仕方がないと思っていた。

でも

アルバムを聴いたら、

歌手であることさえ…否定されてるような気がして、

歌も歌えなくなった。




店を開けてても、音をかける気がせず、無音で営業していた…。


ある日。

原田が来て、勝手にステージに上がると、

何もいわずいきなり、ピアノを弾き出した。

営業終了まで、弾き続け、お客がいなくなると、

飲んでもないのに、

カウンターにお金を置いて、無言で帰る。

それを、何日か繰り返してると、

今度は、武田がやって来て、

ドラムをセットし、原田といっしょに演奏しだした。

二人は、営業が終わると、

お金を置いて帰る。


アメリカから戻ってきた阿部が、

扉を開けた。

ダブルケイに響く

武田と原田の音に驚き、

しばらく…店内をポカンと眺めた後、

慌てて、外に出る。

車に、積んであったベースをつかむと、

店内にもどり、

ステージに上がり、チューニングをやりながら、演奏に参加する。

そして、阿部もまた演奏が終わると、お金を払った。

阿部は、少し恵子の顔を伺いながら…。

そんなことを

何ヶ月も続けた。