紗理奈の言葉から、

しばらく時が止まる。

優一は黙って、ビールを一口飲む。

そして、ゆっくりと顔を、紗理奈に向け、

「わかったよ。また友達から始めよう」

優一は頭をかく。

紗理奈が頷く。

明日香はそっと、CDを変えた。

マイルスディビスのワーキンだ。

ピアノが転がり、マイルスのミュートが限りなく優しい。

「あっ!まるで香月さんのペットの音みたいだ」

優一が思わず、口に出した。

「嬉しいですけど…こんな音、あたしには出せません!先生」

「先生はやめてくれ」

明日香と紗理奈は笑った。

優一は、教育実習を終えてから、なぜか、音楽が恋しくなり…

ギターを練習し始めていた。



あれから3年以上。

「まだ、2曲しか弾けない!?」

紗理奈は思わず、声を荒げた。

「仕方ないだろ。一人で部屋で弾くだけだから」

一曲は、エリッククラプトンのチェンジ・ザ・ワールド。

もう一曲はUAの情熱だ。

UAの理由は、

紗理奈が歌ってたから。

「最近じゃない!」

紗理奈はあきれた。


二人は笑い合った。

こうして、

二人は、ユニットを組むことになった。


Evilを後にし、二人は夜の街に出た。

少し前を歩く優一に、

紗理奈は声をかける。

「どうして、情熱を練習してたの?」

優一は振り返り、

「言っただろ。歌を聴いて、感動したからって」

「どうして…気にかけるの?」

「いっしょに音楽…できるかなと。せめて、ステージの上くらいは、連れて行ってあげようと」

「どうして…あんなに冷たくしたのに」

「さあな」

優一は前を向いた。

「あたしのこと…好きって訳でもあるまいし…」

「どうだろうな」

優一は走り出す。

慌てて、追いかける紗理奈。

「もし、そうだとしたらあ!いろいろやりようがあっただろ」

「でも、今は友達からだ」

優一は笑う。

「ねえ?好きなの?」

二人はじゃれあいながら、第1歩を踏み出した。

踏み出したばかりだ。