それから、

紗理奈は、音楽にのめり込むこととなる。

歌を歌いたくて、カラオケによく行くようになった。

CDショップも、よく行くようになった。

そうすると、

知らず知らずの内に、音楽好きが集まるようになった。

奈々子とえりか。

同じ店の仲間だが、いつのまにか、カラオケ友達になっていた。

歌を歌うことで、

精神的に楽になったみたいで、

よく笑うようになっていた。



そんな…ある日。 

いつもと同じように席につく。

奈々子と、二人でついた席は、

一人が、マネージャーの知り合い(何度か見たことがある)長髪の男と、

その男の連れには見えない…綺麗な顔をした男…

まるで、女の子のような美形だ。

紗理奈は、美形の方の隣に座った。

ドリンクをつくり、他愛もない会話を続ける中、

ふっと、会話が途切れた。

前に座る長髪が、女の子のドリンクを頼んだらしく、

紗理奈の前にも、ビールがくる。

乾杯の後、

いただきますと言って、一口飲んだ。

こういうときは、ありきたりな話題がいい。


「趣味とかありますか?何か好きなことは?」

美形は、VSOPの水割りを飲みながら、少し考え込み、

「音楽が、趣味かな?でも…俺は聴くだけ。知り合いが、バンドやってるけど」

音楽という言葉に、

思い切り反応する紗理奈。

「何を、聴かれるんですか?」

美形は少し考えながら、

「もっぱら洋楽だけど…日本人も聴くよ。今、話題になってる…。えっと名前が出てこない…海外で活躍している…なんとかかずみ」

「河野和美!」

思わず、紗理奈の声のトーンが上がる。

「そう!河野和美だ」

紗理奈は、嬉しくなった。