「音楽の歴史を紡いだのは…この地に来ても、アメリカに帰った者たちじゃよ…。わしらはある意味…祖国から逃げたのかもしれん…差別から戦わずに」

老婆は、和美をじっと見つめて、

「あんたは…逃げたんじゃないね」

和美は、老婆に微笑んだ。

「捨てたのかもしれません…」

和美の言葉に、老婆は笑った。

「あんたは捨ててないさ。自ら、捨てたという者は…なかなか捨てられないもんさ…。いずれ、自ら気づくじゃろ」

少し考え込む和美。

老婆はそんな和美を、優しく見守りながら、

おやすみと言って、

灯りを消すと、出て行った。




次の日。

和美は、丁寧に毛布をたたむと、部屋を出た。

そして…老婆の所にいくと、頭を下げた。

「昨日は、ありがとうございました」

「よく眠れたかい?」

和美は、深く頷いた。

そして、真剣な表情になる。

「この町に、働くところはありますか?あたし…しばらくこの地にいます」

いきなり、歌で食えるわけがない。

普通に働きながら、歌を歌おう。


こうして、和美の旅は始まった。