どこまでも続く海岸。

青い空。

覚えてるのはそこまでだった…。

気がつくと、闇の中…

ほんの小さな灯りに、暖かな毛布に包まれていた。

体を起こすと、灯りの向こうに老婆と、小さな子供がいた。

子供は、老婆にしがみつきながら、じっとこちらを見ていた。

「気がついたかい?」

老婆はそう言うと、椅子から立ち上がり、別の部屋に消えていった。

子供はまだ、こちらを見ていた。

和美が微笑みかけると、

子供は照れたように、老婆の消えた方に、走っていった。

「ここは…」

和美は、ベッドの上にいた。

横にある小窓から、空をみると、

日本とはちがう星空が、広がっていた。

「海岸近くで、倒れておったんじゃよ」

老婆は暖かいスープを持って、戻ってきた。

和美のお腹が鳴った。

「お腹が、すいとるじゃろ。行き倒れなど、久々に見たわ」

和美は、老婆の言葉を何とか理解できた。

フランス語…少し訛りがある。

和美が遠慮していると、

「早く食べんと冷めるよ」

老婆の優しい眼差しに、

和美は、手を合わせると、スープをいただくことにした。

老婆の後ろから、子供が出てきて、和美がスープを飲む様子を見守っている。

老婆は、子供の頭を撫で、

「この子が、あんたを見つけたんだよ」

和美は、スープを飲む手を止めて、子供に微笑んだ。

「ありがとう」

真っ赤になって、子供はまた…老婆の後ろに隠れた。