少し空気が冷たい。

電車を乗り継ぎ、降り立った駅は、

思い出の中と、変わっていなかった。

目の前に、赤い山が広がる。

夕陽はどこでも同じ。

すべてを赤く染める。

だけど、

この景色だけは、ここにしかなかった。

あの頃は当たり前で、

あまり特別だと、思わなかった。

歩く道さえ、そこへ至る一歩一歩さえ…

特別だったのよ。


夕陽に照らされて、そこはあった。

明日香が帰る所。

いつでも、明日香を待ってくれている場所。



あたしは、帰ってきた。

あたしの場所に、あたしの足で歩いて。

手に持っているのは、大切なトランペットが入ったケースと、
あの時、

あなたが、言ってくれた言葉だけ。

すべてが、うまくいった訳じゃない。

傷ついたことも、裏切られたこともあった。

話すこともしたくない…悲しいこともあった。

でも、

あたしは、挫けなかった。

叶えたい思いが、あったから。

戻りたい場所が、あったから。

あたしが、帰る場所があったから。

待ってくれている人が、いたから。






いつもの時間。

まだクローズと、

プレートがかかっている扉を開けた。