そして、また時は流れた。

里美とともに、結成したペパーミントは、ガールズバンドとして活躍し、

何とか、インディーズデビューの話まで、持ち上がるまでになっていた。

しかし、パンクに走ろうとするバンドと、明日香の間には、少し溝が入ろうとしていた。



もう短大も卒業だ。

明日香は、学校近くの小高い丘に立ち、

街並みを見下ろしていた。


決して、大きな街ではないけど、

音楽の街といわれ、ライブハウスは多かった。

明日香の目の前で、夕陽が沈もうとしていた。

海と港と、街が赤く染まっている。

夜が近い。

明日香は、左の方の海岸線を見た。

見えないけど、はるか向こうに、明日香の戻るべき町がある。

風が強い。

潮風にも慣れてしまった。

でも、いずれ…これもなつかしい臭いに変わる。

明日香は、風を抱きしめた。

この臭いも、この風景も、

過去に変わる。

それは、明日香が未来に歩き出すから…。

丘を降りようとした明日香の携帯が、鳴った。

「はい。里美…今から行くわ」