和美は、店の中にいつのまか、

飛び込んでいた。

お客さんを押しのけて、

和美は、ステージにかぶりついていた。

サックスを吹く…

スラッとした長身の

少年。

淡く憂いをおびた瞳。

綺麗な少年だった。

その癖…

サックスの音は太く、深い。

和美は初めて…

自分をこえた音に、出会った。

和美は、自分でも信じられない行動をとった。

ステージに上がり、

サックスに合わせて、

生で歌い始めたのだ。


確かめたかった。

本当なのか…。

演奏中の為、唖然としながらも、止められない阿部達は、

仕方なく、和美の歌に合わせることにした。

マイクを通さなくても、響き渡る声量と、

その歌声に、店にいる誰もが驚愕した。



「理恵さん…」

カウンターの中にいた恵子は、

思わず、火をつけようとしたタバコを…落とした。

ただ1人だけ…

店内で、冷静な者がいた。

ステージ上で、少し微笑むと、少年は、サックスを炸裂させた。

和美の体が震えた。

全身に、鳥肌がたつ。

歌のレベルが…いや、全体のレベルが上がる。

和美は初めて…

歌をうたいながら、恍惚の感動を味わっていた。