音楽祭の前…。練習に来ていた明日香や里美が帰り、

営業も終わった後、

啓介は、ダブルケイにいた。

恵子は、マンションに帰り、

阿部達も帰った。

1人ステージに立ち、

サックスを吹いていた。


マンションには帰らず、

上に泊まったらいい。

昔は、恵子と二人で…ダブルケイの二階に、住んでいた。


できる限り照明を消し、サックスに集中する。

音楽だけが、かかっていた。

ギャングスター。

ヒップホップだ。

DJプレミアのつくるビートにのせて、

サックスを吹いていた。



「ここにいたのね」

扉がゆっくりと開き、

街灯による逆光の中、

現れた女。

真紅のスーツを来た女。

「気づいてないか」

女が入ってきても、

啓介は、音だけに集中している。

女は、ため息をつくと、

カウンターに座った。

そして、

ステージを見つめながら、

静かに目を閉じ、

音に沈んでいった。




やがて…

CDが終わった。

啓介と女が、目を開けるのは、同時だった。

「あっ…姉さん…」

啓介は、呟いた。


「やっぱり…あんたの音は、特別」

和美は、感嘆のため息をついた。

「それなのに…」

和美は、カウンターから立ち上がった。