昼間の渡り廊下。

今日はめずらしく、何人か人がいる。

明日香と、少し遅れてきた里美は、手摺りにもたれ、

漏れる音と風に、身を任せながら、

次々にかわる音たちを、聴いていた。


しばらくしてから、裏門の方がうるさくなった。

和美が来たのだ。

今日は、学校側から楽器が用意されているので、

和美は、いつものオープンカーで、バンドのメンバーが後ろから、別の車で来た。

車から降りた和美は、いつもの赤い色だ。


「来たわね」

里美が、渡り廊下の手摺りから、身を乗り出して、言った。

明日香は頷くと、廊下を渡り、体育館の二階の観客席に、つながる扉を開けた。

演奏しているバンドより、体育館に入ってきた和美に、歓声が沸く。

和美は、軽く頭を下げ、審査員席に座った。

これから出てくる…どんなバンドも、関係ない。

みんなが見てるのは、和美だけだ。

明日香は、震えた。

いつもと違う空気を、だす和美。

あれが歌手。

歌手なんだ。

次々と、点数が付いていく。

今のところ一番は、ブラスバンド部。

やがて…

歓声が、一段と大きくなった。

和美が、席から立っただけで。

観客に軽く会釈し、ステージへ向かう和美を背にして、

明日香は、トランペットを握り締め…控え室へ向かう。

出番が近い。