明日香がステージを降り、カウンターでトランペットをしまうのと、同時に、

音を立てて、扉が開いた。

7時ちょうど、開店時間だ。




お客さんが入ってくると、店の雰囲気が、一瞬にして変わる。

それは、雰囲気だけではなく…阿部たちの演奏も。

営業の始まりを告げるかのように、原田が鍵盤を激しく叩き、ピアノがいきなりスウィングする。

3人の先程までと違う本気が、店内に響く。

軽快な音だ。

明日香は、ステージに微笑みかけると、カウンターでドリンクを作り出す恵子に、頭を下げた。

「またね。気をつけて、帰りなさいよ」

「はあい。おやすみなさい。ママ」

扉を開け、外にでた明日香は、今聴いていた3人の音の余韻にのるように、

軽やかな足取りで、駅へと向った。

駅までの真っ暗な道も、

音楽にのっていれば、不思議と怖くなかった。