演奏が終わり、

拍手の中、啓介はステージを降りた。

真っ直ぐに、カウンターに向かい、

座ると、ワイルドターキーの入ったグラスが置かれた。

「お疲れ様」

恵子の笑顔に、啓介は笑顔で返すと、グラスを手に取った。

氷を転がしながら、啓介は目をつぶった。

ステージ上では、ピアノトリオとなった武田達の演奏が、始まった。

「素晴らしい…」

啓介の感嘆の呟きに、

明日香は振り返り、

ステージを見た。

まったく無駄がなく、

その癖、少し今までと、違うこともする。

彼らの音楽は、いつでも新鮮だった。

聴き惚れている明日香に、
恵子が言った。

「時間、大丈夫なの?」

その言葉に、明日香ははっとして、携帯の時間を見た。

「やばい」

明日香は、カウンターから立ち上がると、鞄と楽器ケースを持って、店を出ようとする。

「途中まで、一緒にいこう」

啓介はそう言うと、一気にターキーを飲み干し、グラスをカウンターに置くと、

「今日の夜遅く…アイドルのレコーディングに、参加しなければならないから…」

啓介も立ち上がり、

驚いている明日香を追い抜き、

「行こうか」

啓介は扉の前で、微笑んだ。