「ふぅ…」

店の準備に追われる恵子が一息ついていると……

健司が近づいてきて…右手に持ったものを恵子に、突き出した。

それは、トランペットだった。

新品の新しいトランペット。

「どうしたの?」

恵子が、目を丸くすると、

健司は照れたように笑い、

「いいだろ?最高のやつだ!でも…金ないから、月賦で買ったんだ」

恵子はクスクスと笑い、

「見栄張って…ローンまでしなくても。他にあるでしょ…トランペットは」


健司は、右手に持った新品のトランペットを見つめた。

「他の安物だ。音が違う!それに、見栄じゃねえよ。決意だ。絶対、後戻りしないと」

健司は、トランペットを恵子に向け、

「一生…こいつとお前と…一緒にいるという誓いだ」

健司は笑い、

「それに…今度、お前とレコーディングするだろ?最高のお前の歌に、最高の音を残してやるよ!永遠に残る音を!」

また照れたように笑うと、健司はそれを隠すかのように、恵子に背を向け、

ステージに向かう。



恵子は、はっとして、

ステージに振り返った。

ステージ上には、武田や原田はいたけど、

健司はいなかった。


恵子が、ため息をつくと、

店の扉が開いた。


「山田さん…来るんだろ?今日は、俺が吹くよ」

店内に入ってきたのは、

啓介だった。