木漏れ日の中、

揺りかごから出された…

まだ小さな体は、

ほんの少しの力だけで、恵子に抱きかかえられた。

恵子の腕の中で、

嬉しそうに

少し手足をばたつかせ、恵子を見つめた。

そして、

小さな小さなで手で、恵子の頬に触れた。

恵子も微笑むと、部屋の中を歩き出した。

静かに。

そして、

静かに歌い出す。

子守歌より、優しい歌。


健司を失い、

歌えなくなったカナリアは、

赤ん坊をあやすときだけ、自然に歌えた。

たった一人の大切な坊や。

さらに嬉しそうに、手足をばたつかせる。

まるで、リズムをとるかのように。

恵子もさらに微笑み、

「啓介は、歌が好きなのね」

もう一曲。

恵子は、歌い続けた。

たった一人の観客が、

眠りにつくまで…。