「今日は来ないね…。何かあったのかな?」

阿部が、ベースのチューニングを合わせながら、心配そうに言った。

もう七時前だ。

恵子は、カウンターの上に用意してあったコーヒーカップを、眺める。

こんな時間まで、明日香が、連絡してこないなんて…

めずらしい。

少しため息をつき、恵子が、カップを下げようとした時、

電話が鳴った。

恵子は、カップをそのままにして、受話器を取った。

「ありがとうございます。ダブルケイです」

恵子の言葉が、止まる。

かけてきた相手は、明日香だった。

恵子は、受話器を持ったまま、何も話さない。

「わかったわ…」

しばらくして、恵子は頷き、

最後に、おやすみと言って、電話を切った。

泣き声で、何を言ってるのか、聞き取れなかったけど、

来れない状態であることは、理解できた。

恵子は、煙草を取り出し、火をつけると、

カウンターに残されたカップを見つめ…ため息の煙をはいた。

そして、もう一度、煙草を吸うと、

扉にある…KKのロゴに視線を移し、

ただ目を細めた。