黄昏に香る音色

啓介のグラスの中で、氷がざわめく。

お客の一人が、啓介を見付け、テーブルから、近づいてくる。

「けいちゃん?やっぱり、けいちゃんだあ!もどってきたんだ。いつ、アメリカから?」

啓介はグラスを置き、カウンターから立ち上がり、頭を下げ、

「昨日です」

「いやあ〜。やっぱり、けいちゃんが、いないとさあ。ママだけじゃ、ダブルケイとは、言えないからねえ」

明日香は、お客の言葉に驚いた。

(恵子と健司とで…ダブルケイじゃあないの?)

「今日は、演奏しないの?けいちゃん」

「これから…用がありまして、すいません」

啓介はまた、頭を下げた。

「まあ、仕方がないか!今、話題の新人、安藤啓介!忙しいよなあ」

「ジャズなんて…やってるやつが、少ないからですよ」

啓介は苦笑し、ケースを手に取ると、

「これから、レコーディングなんで…失礼します」


「さすが!すごいねえ」

「ただ…アイドルのバックで、吹くだけですよ。失礼します」

啓介はお客に、挨拶すると、恵子の方を見て、

「じゃあ、ママ。いってくるよ」

啓介は颯爽と、店を出ていった。

安藤啓介。

明日香は気づいた。

伝説の歌手と、同じ名字。