「私、頭悪いし、気が利かないから、どう切り出したらいいのか、何を考えているか、どう聞いたらいいか、ずっと分からなかった。」
 「頭悪いってことはないと思うけど。」
 「でも頭悪くてよかった。奏太よりは単純だし。」
 「なんだそれ。」

 手を離した晴香が、僕の目の前に立った。ビックリして止まったら、真面目な顔をしたまま、僕の頬を両手で思いっきりつねってきた。

 「いたたたたた」
 「どーだどーだ痛いだろー」
 「いたい」
 「あの時、私も痛かったけど、ほっとしたんだ。」

 あの時と言われて、いつだか思い出せなかった。けど、気がつくとさっきまでの真面目な顔から、いつもの笑顔に戻っていた。

 「トイレ行ってきていい?お寺さんで借りれるかな?」
 「たぶん大丈夫だと思うけど。」
 「ごめん、ちょっと待ってて。」

 とりあえず、境内のベンチに座って待つことにした。