「そういや今日、百合子さんは?」



その質問に、彼の前を歩いていたわたしはぴたりと動きを止めた。

……いつのまにかうちの母親は、桐生さんに自分を下の名前で呼ばせていたらしい。

まったく、顔がいい男の人に対してはいっつもこうなんだから……。

そんなことを考えつつ、わたしは口を開く。



「えっと、今日はお母さん、高校の同窓会らしくて……」



なるべく平静を装って、彼の問いかけにこたえる。

その返答を聞いた桐生さんは、ふぅん、と特に驚いた様子もなく鼻を鳴らした。



「じゃあ今日は、この家に俺たちふたりきりってことか」

「──ッ、」



後ろから聞こえてきた言葉に、またドクンと心臓が音をたてる、けど。

わたしは内心動揺していることを悟られないよう、そうですね、なんて涼しい口調で返した。