「や、悪い。……あの本は、一応人からの預かり物だから。だから、貸すことはできないんだ」

「え?! あの本預かり物だったんですか……?!」



てっきり桐生さんの私物だと思ってたから、今までずっと彼に負い目を感じていたけど。

ど、どうしよう。わたし、ほんとに大事なものに傷をつけちゃったんだ……。


また罪悪感がよみがえってきて、つい口をつぐんで押し黙ってしまう。

とたんに落ちこみだしたわたしの考えを見抜いたのか、再び彼が口を開いた。



「だからって、また罪悪感感じることないからな。あの本の持ち主は、そんなことくらいで怒るような奴じゃない」

「でも、」

「本当に、大丈夫だから」



こちらの言葉をさえぎって、桐生さんはきっぱりとそう言った。

そんな彼に、わたしは未だ釈然としないながらも、こくりとうなずく。

ようやく納得したわたしを見て、桐生さんは小さくため息をついた。