だけども彼の言葉は、これだけではなくて。



「でもとりあえず、」

「はい?」

「対策として、次同じ間違いするたびデコピンな」

「なに───!?」



聞き捨てならない提案に、思わず椅子を立ち上がり全力でつっこんだ。

すると彼は、鼻で笑ってあっさり口を開く。



「ハッ、冗談だっつの。これでやる気出ただろ?」

「……おかげさまで!!」



やっぱりナイナイ!! この人でなしとは!!

そう思いながら、わたしはどすんと勢いよく腰をおろした。

あーあ、椅子が壊れるーなんて言葉が頭上から聞こえるけど、無視無視。



「けど、ま。わかんないとこあったら、遠慮しないでちゃんと俺に訊けよ」

「………」

「時間かかっても、理解できるまで何回だって教えてやるから。わからないところ放置されるより、ずっといい」

「……はい」



さっきまで、人をからかうようなことばっかりしてたくせに。

桐生さんはこんなふうに、いきなり“先生”の顔になる。

ポンと1度頭に乗せられた手から大人の余裕がうかがえて、ちょっと悔しい。



「ん、よし。んじゃ次回は、どのへんやっかなー」

「………」



この余裕と甘ーいマスクで、今までどれだけの女の子を落としてきたんだろうか。

……まあそもそも、わたしは桐生さんに彼女がいるのかどうかってことすら知らないんだけどさ。