あれから、2ヶ月が過ぎた。

わたしは家庭教師をやめてしまって、あの日以来、桐生さんとは会っていない。

ケータイのメモリも、消去済み。

……でも、これでいい。

これでいいんだと自分に言い聞かせて、毎日を過ごしていた。



「──世莉ちゃん、」



後ろから声をかけられ、ふとまぶたを開けたわたしは固いカウンターから上体を起こした。

振り向くとそこには、おじいちゃんの姿。



「ごめ……おじいちゃん……わたし寝ちゃってた……?」

「大丈夫かい? 疲れてるなら、家の中で休んでも……」

「んーん、平気。ごめんなさい、お店のカウンターで居眠りしちゃって」



そう言ってわたしは、ごしごしと目をこする。

おじいちゃんはそんなわたしに「気にしなくていいよ」と言いながら、小さく笑った。