「……ごめん」



彼が口にしたのは、明確な、拒絶の言葉だった。

右手の力が緩んで、掴んでいた服がするりと指をすり抜ける。



「……ごめん……」



もう1度、桐生さんは苦しげな声で呟いて。

それから、再びわたしに背を向ける。



「……送るから。帰るぞ」



桐生さんは、“大人”だから。

“子ども”のわたしを決してここに置き去りなんかにしないし、かといって、期待させる言い方もしない。

はい、と小さく返し、わたしもまた歩きだした。


──胸が、痛い。目頭が熱くて、鼻の奧がツンとして、まるで呼吸困難みたいに、息がうまくできない。

前を歩く桐生さんは、決してこちらを振り向くことがなくて。



「……ッ、」



こんなに、苦しいのに。

どうしてわたしは、こうしてる今も桐生さんのことがすきでたまらないんだろう。