そうしてとなりに座るお母さんから、今日1番の爆弾が落とされる。



「桐生さんは、あなたの家庭教師をしてくださるのよ。仲良くしなさいね」

「──は?」



にこにこと話すお母さんの言葉に、わたしは思わずすっとんきょうな声をあげた。



「な、なにっ、家庭教師って……!?」

「聞いての通りよ。あなたが桐生さんに、勉強を教えてもらうの」

「わ、わたし聞いてない……!」

「当然でしょ、言ってないもの。先に教えてたら、世莉逃げるじゃない」

「だからって、そんな勝手に……!」

「世莉ー? あなた学年末の数学のテスト、何点だったっけ?」

「ゔっ」



動揺を隠せないわたしの様子と対照的で、お母さんの態度は実にあっけらかんとしたものだ。

呆然とするわたしをしりめに、「そうだわ、」と何か思いついたように両手を合わせる。



「世莉、自分の部屋に桐生さんを案内してさしあげなさい」

「へ?」

「今日は勉強に入らないで、ただの顔合わせなんだもの。せっかくだからこれからお世話になる部屋を教えておきなさいよ」

「なっ、」



だ、だから昨日、やたら部屋の掃除しなさいって言ってたのか……!

うらめしげにお母さんの顔を見上げても、当のお母さんはまったく堪える様子がない。

するとここで、それまで黙っていた“桐生さん”が口を開いた。



「そうだね。僕も先に部屋の位置を教えてもらっていた方が安心かも」

「え?」

「案内してもらっていいかな? 望月さん」



あやめ堂で会ったときとは全然違うやわらかい雰囲気で、にっこりと微笑まれる。

気づけばわたしはその笑顔に見とれて呆けたままうなずき、彼を自分の部屋へと案内していた。