「なんでお前が謝る」
謝らなくちゃ、いけないのは、本当は。
本当は───……。
「だって……矢渕くんがあそこまで怒る
なんて、……私が何かしたのかと、思っ
て」
自分のことには鈍いくせに。妙な所で、
鋭い。
特に───……。
『矢渕くん……辛いの?』
『う、うるせぇ。辛くなんてねー…!』
『矢渕くん、泣かないで。澪が……澪が
居るから……』
特に、人の心の痛みには、驚くくらいの
洞察力を見せる。
幼稚園に最後に残るのは、いつも俺と澪
だった。
仕事だってわかってても。男手一つで、
頑張って育ててくれることを知っていて
も。


