いや、正確には、向坂くんが通ろうとす
ると皆がはじっこに寄って、道ができる
んだけど。
それは恐怖からであったりもするけど、
ほとんどが尊敬の眼差しで向坂くんを、
見つめている。
意外に慕われてるし、人気者なんだ。
……まあそりゃあ、学校1のモテ男だも
ん、当然だよね。
「なあ、泣き虫兎」
「はい?」
「どこか行きたい所、あるか?」
そう訊かれて、行きたい所かあ、と考え
ていたら───……
「澪」
ここにいるはずのない、声がして。
その人を見つけた時、向坂くんが眉間に
深くシワを刻んだ。
私たちに向かって、人当たりの良さげな
微笑みを浮かべながらヒラヒラと手を振
っているのは───……
「燐ちゃん!?」
───燐ちゃん、だった。


