「しょーじき、センパイの行動は女にモテるためのことしかないっすよね。笑顔やめたらどーっすか」
唇を尖らせるような言い方は、苛つきもあるらしい。あんなのに好かれて何が嬉しいのか皆目見当もつかないが、好かれないためには笑顔をやめろか。
自身の下顎、唇を触り、エレベーター内の鏡を見る。
「好きで笑顔になっているわけじゃないよ」
誉のこと以外で喜ぶことなんかない。
「俺にとっての無表情が、これなんだよ」
誰にも俺の心を見られたくないから。薄っぺらい笑顔が板に付く。無表情では、ふとした瞬間に“変わってしまう”けれど、あえて笑顔を意識することで仮面のように貼り付けられる。
無意識(無表情)は、無防備なんだ。
周りの奴らに知られたくない。俺の心は誉の物だ。嘘をつかないのは誉の前だけ、彼女はいつだって、“特別”であり、その扱いも唯一でなければならない。
「俺らはずっと、センパイに騙されるんでしょうねー」
地下につき、津久井くんは溜め息混じりに降りていく。


