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企画部課長に引き抜かれるか、などのひそひそ話を聞き流しつつ、九条が連れてこられたのは――男子トイレだった。
しかもか商品を置く倉庫近くにある使用者があまりいない、うす汚いトイレ。小便用の便器一つ、個室一つしかないそんな狭い場所だが、入る前から九条は、この男が何をしたいのか分かっていた。
「課長、なんでしょうか」
白々しくもない言葉は、笑顔の口から溢れる。
「君の噂はよく聞いているよ」
健康診断で毎回注意を受けるような丸い腹がこちらに向く。
「若いのに出世頭。東大出のエリートでもないのに、何故なんだろうねぇ」
「それは、私の努力とその成果を認めてもらえ――」
口が閉じたのは、課長が肩に手を置いたからだった。


