「……」
「“捕まらないように”だなんて、チンピラみたいなことは言わないでね。子供が大人に勝てるわけがないでしょう」
体にしても知識にしても、長く生きてきた方が有利。そんな優劣が分からないわけではない。
「誉と、一緒になりたいんだ」
それらを省みずに先走ったのは、愛情であり“子供”故に。
「“おバカさん”ね、本当に」
聞き分けのない子に苦笑する。
「誉ちゃんと二人っきりになるためにも、立派な大人になりなさいよ」
撫でる喜びを知る右手には、湿布。叩こうとした拒絶の意思が失われ、瑞希は初めて、先生に触れた。
「おにいちゃん、ないてる?なでなでー」
撫でる喜びを知った子から、撫でられる喜びも味わう。
大人になったら――
そんな決意を懐くが如く、小さな体を抱きしめた。


