怖いから、より痛く叩くんだ。相手が反撃しないように――
羊の皮を被った狼ではなく、それこそ痛いのが嫌だから、手を上げる矮小な羊そのもの。
「うえぇんっ、ごめ、んなっ、さ、いぃっ。たたか、ないでぇ……!」
叫ぶ泣き声。鼓膜に響く。瑞希の右手が発端となった、ぶり返し。
想像に難くないんだ。孤児院(ここ)に来た時点でそういった話は多いし、そこでも尚、虐げられた過去を持つ瑞希は、独りでいると決めたのに。
振り上げた右手の使い道は、幼子の頭を撫でることとなった。
「泣かなくて、いいよ」
ごめん、と謝る。
素直に出てきた言葉の意味を後に考えてしまう。
悪いだなんて自覚はない。けれど、とっさにそんな言葉が出たのは、あすなろ院の一員になったからか。


