それだけ。
たったそれだけの『何気なし』でも、誉にとっては地雷だった。
「やっ」
僅かに上がった手を、叩く。叩いた拍子に瑞希の手からハンカチが落ちた。
それほど力強かった。本気の拒否は痛みを伴い――狭いと称された心に熱がこもる。
落ちたハンカチを拾わず、誉が警戒した“正にそれをやろう”と上がった右手だが。
『瑞希ちゃんには、誰かを撫でてあげられる喜びを知ってほしいから』
「っ……」
なんでその言葉が過るのか、おかげで右手が下げられない。
えんえんと泣く煩わしい幼子の声。黙らせたいなら叩けばいい、そうやって『前は教わった』のに――
『目には目を、では生易しい』
そんな不条理を“知っていた”のは、何よりも自身が“味わっていた”からだった。


