麗しの彼を押し倒すとき。



そう、彼は私が会いたがっていた幼なじみの一人、相馬 棗(そうま なつめ)だった。

昔は私の後ろをちょこちょこと着いてきて、幼なじみの中でも群を抜いて可愛かったあのなっちゃん。

もちろんあんな毒を吐いたりなんてなかった。


そりゃ、今も外見は可愛いとは思う。

女装なんてさせたら完璧女にしか見えないだろうし、まつ毛なんて私より長そうだ。


それに昔は心だって純粋で綺麗だった。

私が転んで怪我をした時だって、死なないで!ってなっちゃんの方が心配してくれたり、一緒に泣いてくれたり。

……まぁ、実際は男だったんだけど。



「私のなっちゃん返してよ!」

「うわっ!ちょっといきなりキャンキャン吠えるなボケ犬!」

「だれがボケ犬よ!」


どこの成長過程でこうなってしまったんだろうか。

悲しみに浸りながらマグカップを傾ける。だけどコーヒーはスペシャルと言っていただけあって美味しかった。



「ジョニーさんありがとう!コーヒー美味しいよ!」


カウンターの奥でカップを拭いていたジョニーさんに笑顔を向けると、彼はわざわざ食器と布巾を置いて嬉しそうに近づいてくる。



「もう俺は今、感激で涙が出そうだ」

「へ?」


なぜかジョニーさんは私の前に片膝をつくとそっと手を取り、両手で握りしめた。

その目はキラキラと輝いて、鏡のように私を写している。



「柚季ちゃんはこのむさ苦しい男ばっかのモンブランに、奇跡的に舞い降りた女神だよ! 柚季ちゃんだったらいつでも何でも作ってあげるからね!」

「あ、あの…」

「いてっ!」


戸惑いつつもされるがままになっていると、不意に私の背後から飛んできた何かがジョニーさんの額にぶつかった。