麗しの彼を押し倒すとき。




「柚季のおかげで今日は三年分笑った」


目の前で口の端を上げる椿に、私はずっとむくれたままだった。

結局、私がずっと女の子だと思っていた幼なじみ達は、全員男だったのだ。



……べつに、椿たちは悪くない…と思う。

全ては私が9年間ほど、この地元に思い出フィルターをかけていたせいだ。

と、言うよりまぁ、生まれてからのボケを引きずった結果がこれだ。



ため息を吐き出すと、コーヒーを飲んでいた椿と目が合った。

マグカップを持つ指はスラリとして、だけどどこかゴツゴツしていて、さりげなく男らしらを感じさせる。



「……ずるい」


自然ともれた声に、「ん?」椿が反応する。


だけど続きは言葉にならなかった。


女と思い込んでたのもあるかもしれないけれど、凪ちゃんも椿も、私の想像力じゃ追いつかないほど成長してて全然気がつくことできなかった。

こうやって話してても、何だか違う人に感じてしまうのも事実。



「まさか一条くんと柚季ちゃんが、そんな関係だったなんて……新しい情報ゲットしちゃった」


それまで私たちを傍観してた桃子先生がそこでやっと口を開いた。


「桃子先生……何がそんなに楽しいんですか」


衝撃の事実を知らされぐったりとした私に対して、先生の唇は止まることを知らないようだ。


「え? だってものすごく面白いじゃない! ……10年近く女と思ってた幼なじみ。だけど再開したらまさかの男だった!
…そんなの、今まで柚季ちゃんしかいないんじゃない?」



……なんだろう。物凄くボケてるね。って言われてる気しかしない。