麗しの彼を押し倒すとき。




「……って、何で椿ちゃんまで男になっちゃったの!?」


立ち上がった私に、桃子先生と椿の驚いた顔が向けられる。




「柚季……今度はどんな勘違い引き起こしたんだ?」


開口一番、眉をひそめながら言ったのは椿だった。

今にもパニックになりそうな私に対して、椿は至って冷静だ。



「……何を勘違いしてるか分からないけど、俺は今も昔も男だから」


そう言って軽く微笑んだ椿に、先ほどの凪ちゃんの姿が重なる。



「凪ちゃんも…さっきそう言って、」

「凪?……凪もここにいたのか?」

「うん…。 私、今日ここにまた転校してきたんだけどね。 あ、ほらお父さんの仕事があんな感じじゃん?
次はパリだー!って……だからお兄ちゃんと一緒に住むことになったんだけど、」


そこまで言うと椿が、「あぁ、柚羅さんから聞いてたよ。 柚季と一緒に住むって大はしゃぎしてた」悪気なく身内の恥をさらしてくる。


あのシスコン兄貴が頭に浮かび、思わずため息が出た。



「そっか…ていうか、まだお兄ちゃんと交流あるんだね」

「あぁ、まぁ梓(あずさ)がいるからな。 それに……」

「それに?」

「いや、何でもない」


言葉を濁した椿は、それ以上答えなかった。

梓とは、椿のお兄ちゃんだ。

柚羅とは同じ歳で、昔よく遊んでもらった記憶がある。



「あ、そんなことより。 そう、凪ちゃんに旧校舎の変な部屋に連れて行かれて、それでね……」


そこまで言って、さっき凪ちゃんを押し倒してしまったことを思い出し、急に恥ずかしくなって押し黙った。