麗しの彼を押し倒すとき。



「…柚季だろ?」


尚も続ける一条くんに、何と返したらいいのか分からない。

正解を見つけられないままうろたえていると、フッと彼の顔に笑顔が浮かぶ。



「変わらないな、柚季は……」

「えっと……あの、」

「分からない? 俺のこと」

「あー、その……ごめんなさい」


正直に言うと、一条くんは遂に堪え切れないというように笑い出してしまった。

物腰柔らかくて知的そうな外見からは想像できない姿に、少し驚いてしまうも、その笑顔からは優しそうだという印象を受ける。

大人っぽいと思ったのとは反対に、笑顔は少し幼く見えた。



「……一条椿(いちじょう つばき)」


ひとしきり笑った後、彼は不意に言った。



「…え?」

「覚えてない? 柚季ちゃん」


少し微笑み、問いかける。


そのフレーズ、そしてその笑顔。

全てが繋がった瞬間、私の頭の中には懐かしい映像が浮かんだ。



「……つ、つ、椿ちゃん!?」

「正解」


ひどく狼狽しながら記憶の末端を引きずり出した私に、彼は冷静に、手に持っていたグラスを机に置いた。