麗しの彼を押し倒すとき。



「…わっ…なにっ」

「ちょっとじっとして、柚季」

「え?ちょ、離して…」


急に抱き寄せられバランスの崩した私を、彼の逞しい腕が支える。

色気のない声を出しながら、腕から逃れようとする私の首元に吐息が掛かって、何だかくすぐったい。



「……やっと会えた」

「…は?」


彼が言葉を発するたび吐息が首元をくすぐって、身をよじって逃げようとするとそんな声が聞こえた。


もしこれが青春という名の物語に含まれている、アクシデントの一部であれば。

もしも少女漫画の一ページにあるような、素敵な出会いならば。

私だって誰もが憧れる恋のストーリーを、ここから始めていたかもしれない。


でもこれが現実というのは変わりなく、自分の置かれている立場を思い出すと、また顔が熱くなるのが分かる。


……が、一気に顔に昇った血液も、不意に彼の胸へと触れた手によって急降下した。



「……む、胸が無い!」


当たり前、当たり前なんだろうけど。


次の瞬間、嫌な予感が確信へとなった私は思わず叫んでいた。

手をついてぐいっと起き上がると、もう一度彼のそのペタンコな胸を確認する。