麗しの彼を押し倒すとき。



繋がれた手の先にある床を見ると、さっきよりも高くなっているように感じる。


きっと一人じゃ下りられなかった。


そんな事を考えながら、左足を踏み出す。

と、同時に不安定だったデスクチェアがぐるりと回転した。



「きゃっ!」


小さな悲鳴を出すと共に、彼が握っていた手に力を入れて、私を支えようとしたのが分かった。

私も残っていた右足に力を入れて、体勢を立て直そうと試みる。

けれど今日何かしらツイてない私の右足は、少し体重をかけただけで激痛が走り、


あ、そうだ。 そう言えば朝校門で波留くんにぶつかられた時に捻ったんだっけ?


右足の痛みの原因を突き止める頃には、床に落っこちたせいで違う痛みが私を襲った。




「……っ…」


痛い。そう感じる前に、息を呑む。

椅子から落ちたということは、考えなくても容易に想像できた。

けれどどうしてこんな近い距離に、彼の顔があるのかが分からない。

理解できないままの私の腕の間で、彼はただ感情の見えない目を向けて離してはくれない。



「…何?」


静寂を先に破ったのは、彼の冷静な声だった。

形の良い唇から発せられた、少しかすれ気味の声に体中の血液が暴れ始めて、頬がカッと熱くなる。