麗しの彼を押し倒すとき。




乾燥した空気に混じって微かに香るコーヒーの匂い。

印刷物のインクの匂いが鼻をかすめる。

どこの学校に行っても最初に入る職員室はいつも同じ匂いがする。



「桐谷柚季……きりたに?」


私の名前を呼んだ中年の男性は、名簿に目を通しながら少し怪訝そうに目線を上げた。

普段からたばこを吸うのだろうか。彼が動く度、少し渋いタバコ特有の香りが届く。

私を見定めるように視線を上下へ巡らせる彼に、今度はこっちが気になって、その彷徨わせる視線の意味を知りたくなった。



「桐谷……お前、兄ちゃんいるか?」

「え?」


予想していなかった問いに、今朝もシスコンを発揮していたお兄ちゃんの姿が浮かぶ。


「いますけど…」

「やっぱりそうか!お前桐谷柚羅の妹だろ?」

「え?」

「いやーあのガキ、顔だけはシュッとしてたからな。よく見たらお前にも面影があってな」