麗しの彼を押し倒すとき。



「んじゃ、無事送り届けたってことで、俺もう行くわ」

「うん。じゃあね」

「じゃーね」


踵を返して歩き始めた彼の後ろ姿を少しだけ見送る。

やっぱり足長い。そういえば身長も高かったな。そんな事を思いながら。



「……送ってくれてありがとー波留くん!」


なんとなく。なんとなくだけど、その後ろ姿に声をかけて逃げるように扉を閉めた。



「……って、名前覚えてんじゃん!」


三秒くらいたって扉の向こうから聞こえてきた声を確認すると、私はくすくす笑いながら歩きだす。



水瀬波留(みなせ はる)


編入初日、最初に出会った男の子。

波留くんは、どういたしましての“し”が抜けてる。ちょっと変な人


この時の私の頭の中には、それだけが記録された。

何故かちょっと、重かった足取りは軽やかになっていた。