麗しの彼を押し倒すとき。




「ごめんなさい」


長くて広い廊下。

ゆったりと前を進むパーマの彼に言葉をかける。

前に通っていた田舎の女子校とは違い大きいけれど、廊下のそこら中に落ちているゴミやガラクタが目立つ。

教室に直行するのがほとんどなのか、私と私の隣を歩く彼の二人以外、この場に生徒は見当たらない。

不意に何でこの人と一緒に、知らない廊下を歩いているのか不思議になったけれど、すぐに自分が言い出したためだと思いだした。



「なーに謝ってんの、柚季っち」


ツンツンと頬をつつかれて視線を向けると、笑顔を見せていた彼の眉がハの字に下がる。

何だかちょっと、捨てられた子犬みたい。



「柚季っちが謝ると俺こそ謝んないとじゃん?」

「……まぁ」

「だから『ありがと』って言ってよ。 ね?」

「うん…ありがと」

「どーいたまして!」


そう言ってニカッと笑った彼に、いたしましての“し”が抜けてるよ。と心の中でツッコミを入れてみる。

なんだか懐かしい気がしたこの一瞬は、もしかしたら最初に感じた違和感だったのかもしれない。