「昔から……近くの高校同士の争いってのは絶えないんだよ」


少しの沈黙の後、お兄ちゃんがため息混じりに言った。

そう一言だけ私に伝えると、箸を手に取り食事を再開する。

多くを語ろうとしない様子に、もしかするとお兄ちゃん自身もその “争い” という物に巻き込まれた時代があったのかもしれないと、なんとなくそう思った。





布団に入り眠りに落ちる少し手前、何故か昨日凪が自分の切れた口元の血を親指で拭った、あの瞬間を思い出す。


血にまみれた男たちの中、ただ一人平気な顔で佇んでいた彼を見て、私とは違う世界で生きてると感じた。

きっと私の人生とは、決して交わることのない人種なのだと……そう思った。


けれど彼があの凪ちゃんだと知った時、意味なく誰かを殴ったりするような人じゃないと思ったのは、記憶の中の凪ちゃんと彼がどうしても結びつかなかったからだ。

だって幼い頃の凪ちゃんは泣き虫で、それこそアリすら殺せないような子だったのだから。


『信じなよ、記憶の中の幼なじみ達を』


柚羅が食事の後、食器を片付けながら言った言葉が頭に浮かぶ。


信じたい。

この9年の間で彼らに何があったのかは全く知らないけれど、それでも記憶の中の幼なじみを否定することはできない。



「あぁー…でも本当に変わっちゃってたらどうしよう」


決意した瞬間、決壊したダムのように不安という不安が流れだす。


相変わらず友達は全然できないし、幼なじみ以外でまともに喋ると言ったら、前の席に座るおーたぐらい。

最後になると思った私の転校生活は、今までにないくらい前途多難になりそうだ。


この日はやけに時計の針の音が耳について、中々寝つきが悪かった。

しばらくこの問題には悩まされそうだと、私は小さくため息を吐いたのだった。