ちゃぷんとお湯に包まれる。

油断するとおじさんみたいに声が出そうだった。


「はぁ……癒される」


肩まで乳白色のお湯に浸かると、今日の出来事が頭に浮かぶ。


なっちゃんを塀に押し付けて、鋭く睨みつけていた男。

私たちの愛蘭高校と同じような紺のブレザーを着ていたけれど、ズボンの色や柄が違った。

同い年くらいとは思えない体格だったけれど、向こうも高校生だと推定される。


どうしてなっちゃんはあんな男と一緒にいたんだろう。

どう考えても交わしていた会話から、あの時道端で初めて会ってトラブルになったとは思えなかった。

きっと以前からなっちゃんとあの男は、知り合いだったのだと思う。



「柚季、そろそろご飯出来るよ」

「あ、うんお兄ちゃんありがとう!」


ドア越しに柚羅を見て勢い良く立ち上がると、考え事をしすぎたのか、少し逆上せてしまったようだった。

お風呂の壁に軽く手をつき、眩暈が収まるの待つ。


「そういえばこんな感じだったな」


壁へとなっちゃんを追い詰めていた男の姿を思い出し、ふっと笑いが漏れた。


……あの時、男はなっちゃんを殴ろうとした。

人が殴られる瞬間を見たことは無いけれど、きっとあの男から感じられた気迫や行動からそうだったのだと予想できる。


なっちゃんには聞けなかったけれど、昨日登校前に見た凪ちゃんといい、もし彼らが危険なことに巻き込まれているなら、どうにか助け出したいと思った。