「なんでせっかくのデートにお前がいるんだよー」



ザクザガエルは不服そうに手足をバタバタさせた。



「お前じゃ頼りないからだ。決まってるだろ。俺だって好きでお前と来てるわけじゃない」



イフェフィアは冷酷な表情で黒縁眼鏡を押し上げる。




ミカエルはそんな二人を眺めては笑った。






──────ここは天界唯一の造船所。




天界では船の需要があまり無い。



なぜなら、川でも湖でも、空中で羽を使って行き交う天使たちには関係ないからだ。



川や湖を渡るのに船が必要なのは、空を飛ぶことのできない物資を運ぶときである。



だから、造船所は一つで十分なのだ。




貨物船が並び、何千もの船大工が作業している。



トンカントンカンというリズミカルな音と、大工たちの笑い声。


天界には『労働』、その字の通り苦労して賃金や報酬を得るために必死に働くという概念が無く、誰もが好きな時に好きなだけ働いている。




どうしてそんな適当な感覚で成り立っているかというと、その秘密は天使の数にあった。



天界には人間界から昇天してくる天使がごまんといるし、神は特殊な能力で絶えず天使を生み出している。



天界には今や数えきれない天使がおり、誰が仕事を休もうが、それを補うだけの天使が他にいるのだ。




この膨大な天使数によって、天界での生活は支えられている。