そうだ、僕には君たちがいればそれで十分なんだ。絶対に僕を裏切らない、純白な天使たち…。



初めからこうすれば良かったんだ。人間なんて、所詮下等な生き物。



ねぇ?ミカエル?君たちはずっと僕のそばにいてくれるでしょ?

約束だよ-------------……















「ん…」



目が覚める。色素の薄い金髪が、朝日に照らされて光り輝く。




最近窓辺に巣を構えた小鳥夫婦のさえずりがきこえた。




上半身だけベッドから起こすと、部屋の扉が勢いよく開いた。





「ミカエル様!!御目覚めでしょうか?!……あぁ、本日も実に美しい…!!」




腰の低い小太りな老人が、寝起きの男性に近寄る。



いや、男性という表現は適切だったかわからない。



それくらい彼は美しかった。





しなやかで光沢を帯びた腰のあたりまである金髪。彫刻のように整った顔立ちと、透き通るような白い肌。唇は薄くほんのりと桜色で、まばたきをするとまるで蝶が羽ばたくようにまつ毛が動き、その青い瞳は空より澄んでいた。





「またお世辞ですか?結構ですよ、私はただの天使なんですから」


何カラットだろうか、窓から射し込む光と同化してまばゆいくらいの輝きだ。


ミカエルの笑顔を直視できず老人は目を細めた。





「いえいえ、御世辞などではございません。ミカエル様の美しさは天界一であられる」




あくまで低姿勢を保つ執事に、ミカエルはうーんと考えてから意地悪な質問をしてみた。




「では私が天界一なら、ガブリエルやウリエルは一番ではないということですね?そうお伝えしておきます」





「ややっ、そういう意味ではございませんっ!どうか御見逃しを…」



「ふふっ、嘘ですよ。あんまりにも貴方が私を褒めるので、からかってみただけです。少し遊びが過ぎましたね、ごめんなさい」



冷や汗をかいていたのか、老執事は額に布をあてがうと、ほっとしたように息を吐いた。



「そもそも、ミカエル様はただの天使などではないではないですか。わたくしなどが言葉を交わすに畏れ多い、熾天使の位にあられます」





「熾天使…………………………実際、名ばかりですよ。日々の行いは民の方が遥かに尊い。彼ら無しでは、我々は生きていくことすらできません」



神殿での正装を身に纏うと、ミカエルは庭に流れる透き通った水を汲み、顔を洗った。




冷たい。早朝の水の冷たさだ。




「カマエル、今日の予定は」



カマエルと呼ばれたその老執事はどこからか小さな巻き物を取り出すと、丁寧に広げながら読み上げた。




「本日は朝会がありますね。民衆への御挨拶を御願い致します。それから方舟の保管地視察と─────………ノドの警備を」




これといって多忙でもない、ミカエルはそう思った。



「了解しました」



「──っあのっ……」



カマエルがいてもたってもいられなくなったように口を開く。




「はい?」



ミカエルは背中で返事をした。





「…ノドの警備はくれぐれもお気をつけ下さい…護衛の者は沢山つけておきますので」




────結構です、そう口を開きかけてミカエルはやめた。




「ありがとうございます」


手短に礼を言うと、彼は広場へ向かった。