そんな造船所の一角に、周りとは少し違った雰囲気を醸し出す、なにやら豪勢な柱に囲まれた、巨大船があった。



船自体は使い古したようにボロボロで、所々穴が空き、帆は破けてもはや使い物にならなくなっていた。



「へーっ!俺これ初めて見たわぁ」


船の大きさと風格に圧倒されてザクザガエルはあんぐりと口を開けた。




「あれ?お前これが天界に迷い込んできたときいなかったのか?大ニュースだっただろ」



「知ってはいたけど船興味ねーし見にいかなかった〜」



呆れてものも言えない、という表情のイフェフィアを尻目に、ザクザガエルはさらに船に近づいていった。




「……ノアは、これをたったの一人で造ったのですよね。実に偉大です。私には到底できない……」




「人間を毛嫌いしているお上が珍しく認めた男です、我々には到底成せない業を出来て当然でしょう」




そう言うとイフェフィアは手のひらサイズの手帳を開いた。



常に学ぶことを忘れないイフェフィアは、天界での出来事を全て書き記していた。




【ノアの方舟】
人間界の人間、ノアが造った船。何故かは不明だが天界に流れ着いた。
遥か昔、人間界にお上が築き上げた世界で、増え続けた人間は悪事を働き続け、しびれを切らしたお上が人間を絶滅させ一掃するために大洪水を起こした。その際、お上に従順であったノアには情けをかけ、大洪水が起こることをあらかじめ伝え、来るべき日に備えて巨大船を造らせた。
ノアは人間界に生きる全ての生物のつがいと自らの一族を乗せ、見事人類絶滅の危機を逃れることができた。




「お上はなぜこんなに人間を毛嫌いしているのでしょう。ノドだって……」




「人間は……裏切ります」



ミカエルは、笑っていなかった。