いつからだっただろう。こんなにも世界が色褪せて見えたのは。

景色がくすんで見えていたことにさえ、きっと気付いてはなかっただろうけど。

私は溜息を落として、雲一つない空を視線だけで見上げた。



4階にある大学の屋上広場。緑の多いこの場所も春先の今は季節的に肌寒く、集まる学生はほとんどいない。


「ちょっとリナ、それマジやばい」

「えーだってめっちゃ金持ってんだよ?使えるものは使わないと」

「お前そんな顔してやることゲスいよなー。男の俺からしてみれば悪魔の女だわ」


ふとフェンス越しに下を覗くと、男一人と女二人がまるで中身の無い会話をしながら大学の外へと歩いていく。

その光景を目にしながら、肌寒さに無意識で自分の腕をさすっていた。

昨日腕にできた青色のあざは日も浅く、押さえるとじんわりと痛みを訴える。


「バカみたい」


吐きだした言葉はただの独り言となって、まだ寒さの残る風に拾われ溶けていった。


バカみたい。

だけど、そんなバカみたいな平和な日常を一番欲しているのは、他でもない自分だったりするから不思議でたまらない。