画面をスクロールしていた指が、ふと止まった。

片方だけしていたイヤホンも外れたから。

でも今聴いてたのと同じ曲がやっぱり私の耳に届いてる。

さっきまで閉まっていたはずの磨りガラスの引き戸が開いてて、そこから聴こえてるんだ。

ラーメン屋でかけられてるFMラジオ。

スピーカーから流れる大好きな声。

ちょっとだけ憎たらしい顔した人がラーメン屋から顔を出すと、ポケットから何かを取り出して私に投げた。

受け取ったそれは、FRISK。

その裏にはiPodに書かれたのと同じような文字で“3年3組 ナントカ リカの男” って書いてある。

私が受け取ったのを確認したその人は、ニヤッと笑みをこぼして学校へ続く道を歩いて行った。

すぐそばからは、甘いダウニーの香り。

そう言えば電話で『スーツケース開けたらまさかのダウニー。絶対母さんが勝手に入れたんだ』って大樹言ってたっけ。

私のイヤホンを握ってる目の前の彼は、深く被った帽子を上げると

「ただいま」

少し伸びた茶色い髪を揺らして、笑った。



















【おわり】