武は明るい夜道から、暗い路地へと角を曲がった。

今夜はまったくと言っていいほど、身体の中に酒の酔いを感じない。

少しふらつく足元は酒のせいなどではなく、由加里に質問攻めにされ、答えを迫られた為の疲れのせいだった。

千珠が宣言してからは、それはもうひどいものだった。

「今から鈴をもってこい。それが無理なら、千珠を連れて帰って鈴を振れ!」

などと、無理難題ばかりをふっかけてきたのだ。

武は由加里の言葉を頭の中から追い出しながら細い路地を曲がり、家の鍵を取り出した。

鍵穴に入れてカチリという音がするまで手首を捻り、暗闇に差し込む光のようにドアの隙間に滑り込んだ。