「遠慮する」

 老人がヤニだらけの黄ばんだ歯を見せて断ると、男は目の色と乱杭歯を元の鞘(さや)に戻した。


「ケッ、喰えない男だ」


「老いぼれの肉は硬くてまずいぞ」


 お互い冗談半分の言い争いをしたあと、男は「またな」と言って倉庫から出て行った。


 間もなくすると倉庫の隅から闇と同化していた一人の女が老人のところまで歩いてきた。


 これから就職の面接に向かう大学生のような白いブラウスに紺色のスーツを着ている。